実戦屋根の知識Knowledge of the roof

第1章「はじめに 家と瓦」

「家」は、まず基礎があり、その上に土台、柱、梁、桁などの構造部分(骨組み)が組まれ、外側が外装材で覆われ、内側が内装で仕上げられます。同時に、電気、水道、ガスなどの設備工事が入り、ひとつの建築物が完成します。

外装材は、屋根材と外壁材に分類されます。

瓦は、現代において広く普及している屋根材の中で、もっとも長い歴史のある代表的な屋根材である、と言えます。

建築全般の視点に立てば、建築物の中でいちばん重要なのは「基礎」と「構造部分」です。この部分の強度が弱かったり、耐久性が劣っている建物は、他のどんな部分にお金をかけようと、その建築物としての資産価値は極めて低いものとなります。

外装材の役目は、建物にとってとても大切な「構造部分」を、過酷な自然環境から保護し、かつ建物に美しい外見を与えることです。

第2章「外装材は消耗材か」

外装材を選ぶ際には相反するふたつの考え方があると思います。

ひとつは、外装材はあくまで構造部分を保護する為の消耗材とする考え方です。米国では屋根材は、何年かしたら取り替えれば良い、とする考えが一般的なようです。但し、この考えの前提には、外装材は取り外しし易く、かつ、いつでも部分補修できるよう材質、規格、色など同じ物がすぐに手に入るという環境になければなりません。米国をはじめとして欧米では自分の家は自分でメンテナンスする、という考えが一般的です。現地のホームセンターに行けば、ほとんどの建材が手に入ると言われています。但しそこには、建築の工法、建材が単純で、その種類が限られている、という日本とは異なった事情があることを忘れてはいけません。

もうひとつの考えは、過酷な自然環境にさらされる外装材こそ高い耐久性を必要とする、とする考え方です。

瓦は後者の考えに属する代表的な屋根材です。

したがって屋根材の選定の際には、自分はどちらの考え方を取るか、を明確にすべきだと思います。

外装材を消耗材と考えるのであれば、その選定の際に留意することは、部分補修が必要な場合を考慮し、その材料が10年後20年後に確実に同じ物が手に入るか検討してみることと、その建材が廃材となった場合の処分が容易かどうか、という2点です。

また、外装材を耐久材と考える場合も、例えば粘土瓦の場合、瓦自体の耐久性は半永久的と言えますが、長い年月のうちに、外力(誰かが屋根に上がって踏み割ってしまう等)によって割れてしまうことがないとは言えません。粘土瓦の種類・形状・カラーも多種多様ですから、将来、製造中止になる可能性のある特殊なアイテム、一時の流行色などは出来るだけ避けた方が無難と思います。

第3章「屋根材になにを求めるか」

次に屋根材を別の観点から分類してみます。いわゆる「軽い屋根材」と「重い屋根材」です。

「軽い屋根材」の代表はカラー鉄板などの金属系の屋根材で、「重い屋根材」の代表は、粘土瓦やセメント系の瓦が該当します。

近年、大きな地震に見舞われた地域では、一時期瓦離れの現象が起こったと言われています。

確かに、耐震診断を行い、構造的に弱いと診断された場合は、もし屋根が瓦で葺かれているのであれば、金属系の屋根材に葺き直すのもひとつの賢明な方法と思います。

しかし、住宅を新築する場合、たとえ軽い屋根材を選択したとしても、構造的強度は重い屋根材でも充分持ち応えられる強度にしておくことをお奨めします。

これはつまり、住宅性能(若しくは住宅の資産価値)の基本中の基本は、基礎と構造体(もっと言えば地盤の品質も加えたい)にあるからです。

建築予算は限られている場合がほとんどです。その限られた中で、どこに最優先に予算を配分するか、と言えば、地盤、基礎、構造体であると断言して良いと思います。これらの部分さえしっかりしていれば、その他のことは後々になっても比較的柔軟に対応できます。この「基本がしっかりしていて、その他が柔軟である」ことが、住宅の資産価値を大いに高め、かつ持続させます。例えば、新築時に屋根に配分する予算が少なければ、取りあえず横葺鉄板で葺いておき、後々余裕が出来た頃に瓦なり好みの屋根材で葺き直せば良いのです。構造体が強固なら、この時の屋根材の選択も自由です。

ちなみに、この考え方の究極の形がスケルトン・インフィルです。構造体(家の枠組み)を強固なものにし、その他(内外装、設備)を分けて設計することで、将来的に、間取りや、内外装、設備の変更が自由に出来るというものです。

さて、ここまで屋根材の選択について思うところを書いてまいりました。先に、日本と欧米の建築事情は異なる、と書きましたが、この項の最後に、そのことについてもう少し触れておきたいと思います。

欧米と比較し、日本の住宅産業の際立った特徴は、あまりの多くの工法、特殊な建材が氾濫し過ぎている点です。例えば、「高断熱・高気密」の工法だけでも現在100種類以上あると言われております。それにあわせて建材も特殊な物が次々に発売されます。我が国の住宅建築業界は、互いに差別化することで自分たちの工法の優位性を主張し合う、という流れになっています。

その結果、良い面として、2000年以降、日本の住宅性能は間違いなく向上したと思います。例えば、我が岩手県における新築住宅のほとんどはしっかりとした断熱が施され、冬季の悩みだった「すが漏れ」がほとんど見られなくなりました。屋根工事業の立場からすると、ほんとうにすばらしい成果だと思います。

しかし、その一方で懸念される点がないではありません。

まず、工法、建材が特殊ですから、後々、メンテナンスをしたり、増改築を行うことになった場合、誰でも工事が出来るというわけにはいかなくなってしまう点です。第一、建材が特殊ですから、簡単に手に入らなくなります。このような工法を「クローズド工法」と呼びます。具体的にはハウスメーカーのプレハブ住宅や、独自の工法をFC(フランチャイズ)加盟店を集って展開する手法などがこれに該当します。それに対して、木造で言えば、木造軸組工法やツーバーフォーは誰でも採用できるよう工法が公開されており「オープン工法」と呼ばれます。

また、先に粘土瓦のことでも触れましたが、日本の場合、外装材は屋根・壁とも、その種類・デザインはあまりに多種多様で、かつ移り変わりが激しすぎる気がします。デザイン性が重視される分野なので分らないではないのですが、やはり建築材料は車や洋服とは違うと思います。その地域の町並みを形成する「定番」と言えるものが必ずあるはずです。

屋根材を選ぶ際には、ぜひ、この定番とは何なのかをよく考えていただき、その中から選んでいただきたい、と言うのが、長く屋根工事業を営んでいる立場から切実に思うことです。

粘土瓦というそれ自体は半永久的な耐久性を持った屋根材の工事をしておりますと、どうしても建物の将来性について先々まで気になってしょうがありません。日本の家の建替えサイクルは25年くらいと言われています。私が心配するのは、25年経ち、柱も細く、間取りも実情に合わなくなっているが増改築に耐えられない、という住宅が、結局、取り壊すしかないとなった場合、その解体と廃材処分にかかる費用です。ここ数年で、解体、廃材処分費は大幅に高騰しました。それがさらに25年後どうなっているのでしょう。

新築時に、解体する時の費用まで計算する方はほとんどいらっしゃらないと思います。老後に解体・廃材処分費のような不毛な出費をせずに済ますには、家を長く受け継がれる資産として捉えねばなりません。今後の住宅建築は、この点がとても大切になってくると考えます。

第4章「屋根材の大分類」

ここでは、現代において一般的に使用されている屋根材についてのみ取り上げます。

粘土系 粘土瓦

練った粘土をプレス成型し、焼成して製造する。いわゆる「瓦」はこの「粘土瓦」を指します。
さらに「いぶし瓦」「釉薬瓦」「無釉薬瓦」「還元瓦」に分類されます。

セメント系

セメントモルタルを主原料とした瓦。配合・製法・混和材の違いから細かくは、コンクリート瓦(モニエル瓦など)、プレスセメント瓦、施釉セメント瓦、高分子繊維強化セメント瓦(FRC)に分類される。

金属系

大きく鋼板系、非鉄金属系分類されます。代表は鋼板系がガルバリウム鋼板、非鉄金属系は銅版。その他にもアルミ、ステンレス、チタニウムなど実に多様な金属が製品化されています。形状も、瓦棒葺き、一文字系、瓦形系と多岐に渡ります。

スレート系

いわゆる人造スレート。一般にはカラーベスト、コロニアルと呼ばれています。
かつては「化粧石綿スレート」と称されていましたが、石綿(アスベスト)問題から、近年は、無石綿品となりました。注意を要するのは、ゼロ・アスベストとノン・アスベストは意味が異なる点です。ゼロ・アスベストは無石綿、ノン・アスベストは微量ですが石綿が含まれているものもあります。

石系

天然スレート

シングル

基材(フェルト紙)の両面にアスファルトを塗布、表面に色砂を圧着した屋根材。本場はアメリカで、今ではアメリカの住宅の80%に施工されていると言われています。日本では2004年頃から基材にグラスファイバーを用いた製品も登場、急速に普及し、今では分譲住宅地のあちこちで見られるようになりました。

天然石付き金属板

幾つかのメーカー(主に海外)から発売されていますが、基本は0.39mm厚のガルバリム鋼板を基材とし、その上を天然石の粒でコーティングした屋根材です。軽量(瓦の1/6程度)かつ耐久性も抜群。美観も優れた屋根材です。形状もバリエーションが多くここ十数年で急速に普及しました。現在、日本の屋根材の15%程度を占めるに至ったと言われています。

こうして見ると、我が国には実に多くの屋根材があります。私たち屋根工事業は、無闇に様々な屋根材に手を出すのではなく、その土地の気候風土に合致した性能と、景観にあった意匠性も持つ屋根材(前述の「定番」)を、過去の経験と知識を持って選別し、お客様に提供する義務があります。

第5章「屋根材に求められる性能」

屋根材に求められる性能を列記します。説明を要すると思われる項目のみ解説を入れました。

  • 防水性
  • 耐火性
  • 耐寒性 ~ 凍結融解(いわゆる凍害)に対する安全性
  • 断熱性
  • 遮音性
  • 耐風性
  • 耐震性
  • 耐久性
  • 通気性 ~ 屋根材と下葺き材の間に流動性がある空気層が確保できるか
  • 施工性 ~ 工事しやすいか、部分取替えが容易か
  • 市場性 ~ いつでも、将来的にも入手しやすい屋根材か
  • 経済性 ~ 新築時の価格だけでなく、将来廃材となる時の解体・処分費まで考慮する
  • 美観性

ざっと拾っただけでこれだけの項目があります。近年は頻発する地震の影響で、瓦など重い屋根材を敬遠する意見が聞かれますが、「耐震性」はこれだけある性能項目の中の1項目に過ぎません。「耐震性」の優れた屋根材=軽い屋根材は、一方で「耐風性」が劣ります。すべての項目が満点と言える屋根材は残念ながら存在しません。大切なのは、屋根材の長所と短所をきちんと認識し、長所を生かし、短所をカバーする設計を行うことです。

粘土瓦であれば、基礎と構造体を強固に設計することで「耐震性」の問題はクリア出来ますし、他でも述べました通り、このことで住宅価値ははるかに向上します。屋根を瓦にしたいから構造を強固にするのではなく、「高価値の住宅を設計したから結果的に屋根も瓦に出来る」と考えてみてはいかがでしょうか。

また、軽い屋根材の代表である金属系の薄物屋根材は、断熱性、遮音性に著しく劣りますが、これらの欠点は屋根に厚めの断熱材を入れたり、通気層を確保することで解決できます。

第6章「粘土瓦の産地」

ここでは、当社が工事を行う際に、もっとも多く使用する「粘土瓦」について詳しく解説します。

一般に「瓦」と言う場合、基本的にはこの粘土瓦を指すのですが、広い意味で瓦と言えば、セメント系の瓦や、場合によってはカラーベストなどのスレートもその範疇に入れることがあるようです。しかし、屋根材としての性能から見て大きな隔たりがあり、私たち粘土瓦を扱っている工事店からするとこういった分類には違和感を感じざるを得ません。広辞苑によれば、「瓦」とは「粘土を一定の形に固めて焼いたもの」とあります。そして何よりも、トップページに書きました「我が国で1400年の歴史がある瓦」の瓦とは、粘土瓦以外の何物でもないからです。

瓦の産地について

瓦は元々が地場産品であり、全国各地に窯元がありました。我が岩手県にも戦後でさえ38もの窯元があったと言われております。

当時の瓦は、だるま窯や登り窯で焼成しており、当然大量生産は出来ません。瓦屋の仕事とは、粘土を掘るところから始まり、練って成型し、乾燥させ焼成する、そして焼き上がった瓦を屋根に葺く、という今考えると気が遠くなるような作業だったのです(当社もそうでした)。

こうしてその地方独特の味わいのある瓦屋根が町並みを形成していったのです。しかしその後、地方の産地の多くは消滅していきました。

現在、我が国の瓦のほとんどは3大産地で製造されています。

三州(愛知)、石州(島根)、淡路の3産地です。

中でも三州が最大で、現在、国内の粘土瓦の約7~8割は三州産と言われております。

ここで注意したいのは、三州はあくまで産地の名称であり「三州瓦」というひとつのメーカーがある訳ではない、ということです(石州、淡路も同様)。

それぞれの産地の特徴は次の通りです。

三州

和瓦の規格はJIS53A判が主 釉薬瓦、いぶし瓦を生産 全国の生産量の7~8割を占める

石州

和瓦の規格はJIS53B判が主 高温焼成による耐寒性の高い釉薬瓦を生産する

淡路

いぶし瓦の生産量は全国一 きめの細かい美しい素地が特徴、但し耐寒性に劣り寒冷地には向かない

その他に新潟に安田瓦など、各地で健闘している瓦メーカーがあります。

第7章「粘土瓦の種類」

製法による分類

現代において広く使用されている瓦は「いぶし瓦」と「釉薬瓦」です。

「いぶし瓦」は焼成の最終段階で燻化を行い、素地表面に銀の炭素膜を形成させ、その後炭素膜を燃焼させないよう窯を密閉して冷却します。このようにして製造されたいぶし瓦は文字通りいぶし銀のような色をしており、その色が変色、退色しにくいものが望ましいとされています。

耐寒性が釉薬瓦より劣ると考えられ、寒冷地における普及率は低いです。当社は三州メーカーのいぶし瓦を仕入れて工事を行っていますが、今のところ凍結融解(凍害)は発生していません。何れにせよ、いぶし瓦を寒冷地で使用する際は、瓦の選定に注意を要します。

「釉薬瓦」は日本の粘土瓦の約7割を占める代表的な瓦です。陶器瓦とも呼びます。その名の通り釉薬を施して焼成し、釉薬の発色により様々な色の瓦が製造されています。

釉薬とは、無色透明のガラスになって溶ける基礎釉に、着色剤(ジルコン、酸化コバルト、酸化鉄他)などを加えたものです。同じ釉薬を用いても、焼成温度や窯の雰囲気に影響され発色が異なる場合があります。

その他の瓦については、当社でも使用例が少なく、説明を割愛させていただきます。

形状による分類

「雨水の浸入をいかに防止するか、また進入した雨水をいかに外に逃がすか」が瓦の形状を決めるポイントです。水は必ず低い所(谷)に集まって流れて行きますから、この谷の部分から瓦の重ね目や隙間に水が上ってこないようにしなければなりません。また仮にそこから浸水しても重なった下部の瓦でその浸水を受けてやれるような形状でなければなりません。これはまた、屋根の工事を行う場合の基本的な考え方でもあります。そんなことを念頭に置きながら独自の観点から瓦の形状を見て行きたいと思います。

(1) 山・谷組合せ形

山になる瓦と谷になる瓦を相互に組み合わせて葺き上げる瓦。山瓦と谷瓦は同形状でも良い。
ヨーロッパのスパニッシュ瓦、日本の本葺き瓦(日本古来の瓦、社寺建築に多く使用される)
珍しいところでは群馬県にある十能瓦

(2) 山・谷一体形

1枚の中に山になる部分と谷になる部分を持つ瓦。(1)の瓦を簡素化、合理化させて瓦とも言える。
J形(和形)、S形、M形(2山瓦)

(3) アンダーラップ形

瓦の表面には極端な山・谷を作らず、横に並んだ瓦の隙間からの浸水は重ね目に設けたアンダーラップで受けて外に吐き出すタイプ。
F形(フラットタイプのF、いわゆる平板瓦) フランス形(フレンチ)

この中でJIS規格があるのはJ形とS形だけです。また、よく洋瓦という言葉を耳にします。極めて曖昧な呼称なのですが、「洋風に見える瓦」という意味にとらえれば、上記の瓦のうち、本葺き瓦とJ形以外は洋瓦となるでしょう。但し、J形=和風とも一概には言えません。事実ヨーロッパにはこのJ形の山と谷の位置が逆な瓦(相似形の瓦)がたくさんあります。形状から言って、もっとも理にかなった瓦ですから、他国にあったとしても何の不思議もありません。

次に、現在一般住宅に広く使用されているJ形、F形、M形、S形について個別に説明してまいります。

(1) J形(和形)

防水性能がもっとも高く、JIS規格もあり市場性も高い(いつでも常に入手でき、メーカー間の互換性もある)。瓦下の通気も充分に確保出来る。価格帯も手頃。総合的に見てもっとも完成度が高く、自信を持ってお奨めできる瓦です。相似形の瓦がヨーロッパで普及している事実が示す通り、カラーや役物の選び方により洋風住宅の屋根も美しく仕上げます。

また、このタイプのバリエーション形状の瓦も多数発売されておりますが、市場性を確保するところまで至った製品は今のところまだありません。

(2) F形(平板、フラットタイプ)

屋根をフラットに仕上げますので、瓦だと気付かずに見ている方もいらっしゃると思います。

瓦表面に山・谷の凹凸が少ないか、ほとんど無い為、水上から、または横走りした雨水が隣り合った瓦の境目から進入する可能性があり、それを前提として「アンダーラップ」という浸水を受ける部位が備わっています。とは言っても防水性能は4種類の中で一番劣ると言わざるを得ません。また、フラットな形状の為、瓦の下に充分な通気が取れず、瓦の裏側に結露を呼び易いと思われます。あくまで4種類の瓦の中での比較ですが、残念ながら屋根材としての基本性能は他と比べ1段劣ります。また、各メーカーが様々な製品を出しているのですが、見た目はほとんど変わらないのに互換性がありません。したがって市場性でも劣ります。但し、三州のある有力メーカーの製品が市場を圧倒していますので、当社としてはその製品をお奨めしています。

(3) M形(2山タイプ)

F形の一種とみなす考えもあるようですが、性能からみてこちらの方が上位にくると思います。1枚の瓦に山がふたつあり、その形状がアルファベットのMに似ていることからM形と名付けられました。山谷のメリハリがはっきりしているので、基本的に防水性能は高いと考えられますし、瓦下の通気も充分取れていると思います。但し、各瓦メーカーが独自の製品を発売し、当然互換性もない為、将来的にどの製品が残るかが問題です。当社では、このタイプの先駆け的商品で、市場でのシェアがもっとも高い商品をお奨めしています。

(4) S形

スパニッシュ瓦を簡素化した瓦で、日本独自の物です。1枚に大きな山と谷があり、その形状がSの字をしていることからS形と命名されました。JIS規格があります。価格帯は高めになります。10年以上前、まだ洋瓦の種類が少なかった頃は洋風な建物によく使用されていましたが、ここ数年の洋瓦ブームの中で、逆に影が薄くなって来たような気がします。もっとも現在でも店舗の屋根やハザードなどに根強い需要があります。

工事する立場から言えば、大きな山・谷がある為、屋根の谷部分の瓦の切り口の隙間が大きくなってしまうのが欠点と感じています。

以上、現場サイドで日頃感じている事柄を交えながら説明してみました。お断りしておきたいのは、各形状の性能面での問題点を指摘しておりますが、それはこれらの瓦はある一定以上の品質・性能はクリアしており、あくまで相互の比較の上で、性能項目ごとに優劣があるのだ、と言う意味です。決して個々の瓦を否定しているわけでない、ということをご理解願いたく思います。

第8章「瓦工事に使用するその他の材料」

瓦屋根であっても、瓦のみで屋根を完成させることは出来ません。具体的には、下葺き材や瓦を引っ掛ける桟木、緊結材としての釘、ビス等多くの材料を使用します。これらを総称して「副資材」と呼びます。ちなみに瓦など屋根材は「本資材」と呼ばれます。

「副資材」を施工工程の順に列記してみます。

  1. 下葺き材(ルーフィング)
  2. 水切板金
  3. 鼻桟木(瓦座・広小舞)、登り淀
  4. 縦桟(キズリテープ)
  5. 瓦桟木(横桟木)
  6. 捨谷鉄板
  7. 本谷鉄板
  1. 緊結材(釘・ビス・銅線
  2. 棟強化金具
  3. 棟心材
  4. 湿式材料(セメント・砂・混和材)
  5. 棟換気部材
  6. 乾式棟材料

この項では、1・5・7・8・10・11・12 ・13について解説いたします。その他については文末の「瓦施工図(CADデータ)」をご参照ください。

1.下葺き材(ルーフィング)

下葺き材(ルーフィング)

屋根工事の第1工程は、出来上がった屋根面に下葺き材という防水紙を貼る工事です。これは瓦に限らず一般的に全ての屋根工事に共通します。屋根材は1次防水層であり、そこを通過した浸水を2次防水層である下葺き材で受けるのです。また、1次防水層である屋根材の裏面に発生する結露水を受ける為にも重要です。ルーフィングとも呼びます。以下、瓦工事に主に使用されるルーフィングをご紹介します。

(1) アスファルトルーフィング22kg・23kg(JIS規格940適合品)

基材にアスファルトを浸透、さらにアスファルト被膜し、鉱物質粉末を裏表に付着させたもの。 1巻の長さは21m、幅1m。JIS規格があり、数値の940は単位面積質量。22kg、23kgは1巻の重さ。23kgは22kgの表面に緑の塗装を施したもの(1kgの差は塗料の重さの差)。

(2) 改質アスファルトルーフィング

通称ゴムアス。アスファルトルーフィングの中にゴムを混入させ釘穴シール性(釘穴の締り)を高めたもの。JIS規格がなく、商品によって製法、品質、価格のバラツキがある。

(3) 粘着層付き改質アスファルトルーフィング

ゴムアスの裏面を粘着層とし、屋根板に接着させて施工する。屋根板に密着することにより釘穴シール性がいっそう高まる。また2次的な効果として、ステープルを使わずに施工出来る=表面にステープルの穴を開けずに済む=防水性向上、となるメリットも大きい。

(3) 粘着層付き改質アスファルトルーフィング

ゴムアスの裏面を粘着層とし、屋根板に接着させて施工する。屋根板に密着することにより釘穴シール性がいっそう高まる。また2次的な効果として、ステープルを使わずに施工出来る=表面にステープルの穴を開けずに済む=防水性向上、となるメリットも大きい。

(4) 合成樹脂系シート

極めて破れにくいと言う特徴がある反面、釘穴シール性は劣る。但し、オルフィン系と呼ばれる樹脂製品が比較的釘穴シール性は良好とされている。

(5) 透湿性ルーフィング

比較的新しいルーフィング材。表面は防水性を持ちながら、裏面から表面へ湿気を通過させる(逃がす)機能がある。

現在、瓦業界では、アスファルトルーフィングはほとんど使用されなくなり、メインは改質アスファルトルーフィングになりました。当社でも、2003年より改質アスファルトルーフィングを全工事標準仕様としました。理由は、瓦の釘止め本数が全数止めかそれに近い形になり、以前よりもルーフィングに釘穴を開けざるを得なくなったからです(瓦を全部釘止めすることについてはまだまだ検討を要すると思います。この点については別の項で再度触れたいと思います)。

但し、改質アスファルトルーフィングは、決まった規格がなく、品質、価格のバラツキが大きいです。当社では、シール性について数種類をサンプルに社内実験を行い、価格と品質のバランスがもっとも良いと判断した製品を使用してます。

合成樹脂系シートは、現在、当社ではあまり使用しておりません。やはり釘穴シール性に納得いかないものがありました。ある製品に釘を刺したまま曝露試験(屋外に放置する試験)をしてみたのですが、しばらくしてかなりの収縮が認められました。釘穴を締める向きではなく開く向きに収縮してゆくようです。どうしても破れにくいルーフィングを使用しなければならないなど特殊な事情がある場合、当社ではオレフィン系の製品を使用してます。

透湿性ルーフィングを使用する目的は、小屋裏結露の防止にあります。小屋裏の暖まった空気が屋根板の隙間から透湿性ルーフィングを通して外へ抜ければ、小屋裏では結露が発生し難くなります。しかし、抜けた空気は一旦透湿性ルーフィングと屋根材の間に留まりますから、今度は屋根材の裏側で結露が発生する可能性が高まります。したがって、瓦工事に使用する場合は、必ず桟木を腐食しない材質(出来れば樹脂材)にしなければいけません。このような条件化では瓦は腐りませんが木材はすぐに腐食してしまいます。さらに、発生した結露水がきちんと外部へ抜け出るような施工を行うことが肝心です。瓦だけでなく、どんな屋根材の場合も透湿性ルーフィングを使用する場合はこの点で注意が必要です。

ルーフィングに限らず、新しい機能を持った材料を使用する場合、プラスの面だけではなくそれによって新たに引き起こされるマイナス面がないか、よく考えることがとても大切だと思います。現代の建築は、互いに完全とは言えない材料・工法をいかにその欠点を補い合う形に組み合わせるかというバランスの上に成り立っている気がします。新建材を導入するということは、そこにそれまでのバランスを崩す要素を入れることです。我々専門工事業者も、常に建築の整合性ということを念頭に置き、工事に取り組むことが必要です。

5.瓦桟木(横桟木)

瓦の古来からの施工法は土葺きでした。屋根の上に葺き土を置き、瓦をそこに馴染ませるようにのせていく葺き方です。当然重量は重くなりますが、当時の瓦は今と違って多かれ少なかれ形がねじれているのが普通でした。その瓦を組み合わせて葺いてゆくのですから葺き土で調整を取らねばならなかったのだと思います。西日本では現在でも土葺き工法が行われています。阪神淡路大震災の被害も、土葺き工法が多かったことがその一因とされています。

一方、東日本はほとんど引っ掛け桟工法です。関東では、関東大震災後、一気に引っ掛け桟工法が普及しました。建築の世界は「湿式から乾式へ」の流れにありますが、この工法の変遷もその流れの一部と言えるかもしれません。

引っ掛け桟工法は葺き土を用いず、屋根に桟木という横棒を打ってそこに瓦を引っ掛けて置き、釘止めします。使用される桟木の種類は以下の通りです。

  1. 木材(杉が多い)
  2. 防腐処理木材
  1. 樹脂材
  2. 金属製(アルミ)

瓦屋根の耐久性(瓦自体の耐久性ではなく)を考えた場合、まず瓦は半永久的、本谷の谷板も当社の場合はステンレスを使用しているので、まず大丈夫、棟積みもモルタルの接着力に依存しない独自の耐震工法、そうなると残された課題は、瓦桟木の耐久性と、棟の土台となるモルタルの耐久性です。解体時に何度か確認したのですが、50~60年前に施工した棟の土台モルタルも強度的に充分なまま現在に至ってます。そこで残るは瓦桟木です。

腐らない桟木を使用するのが最良ですが、当社では防腐処理木材は基本的に使用しません。防腐処理薬剤の効果と安全性が懸念されるからです。防腐処理木材は薬剤を木に注入する場合もあるのですが、基本的に薬剤が注入されやすい木材とは腐食し易い木材に他なりません。腐食しにくい木材(ヒノキ、ヒバなど)はほとんど薬剤が浸透しません。将来、防腐処理木材が腐食し朽ちてしまったら、薬剤だけがそこに残ってしまうことになります。環境負荷を考えればやはり使用は控えたくなってしまいます。

ならばヒノキを使えば良い、とも思えますが、残念ながら今のところヒノキやヒバは継続的な入手が困難なのです。

そこで注目されるのが樹脂製の桟木です。ある大手ハウスメーカーでは数年前から標準仕様になっています。曲げ強度、圧縮強度では木材に劣りますが、瓦桟木として使用する場合は問題がないと思います。

樹脂桟木は、木材より価格は高いですが、材料費全体に占める割合はそれほど多くありません。大雑把に言って当社が工事を行う平均的な屋根の大きさだと、2~3万円ほど工事代を追加していただければ樹脂桟木にできます。

今のところ、当社では桟木には杉材を使用し、現場によっては棟際、谷際といった浸水の可能性が高い箇所のみ樹脂桟木を使用しております。

最後に、桟木の水抜き穴(ウォーターホール)に触れておきます。

瓦の下に水が浸入した場合、または瓦の下で結露が発生した場合、流れ落ちようとする水が瓦桟木で遮られてしまい逃げ場がなくなってしまうと、ルーフィングを止め付けたステープルの穴や、桟木を止めている釘穴から屋根板の方へ浸入してしまう場合があります。したがって、この水が桟木に遮られないよう、桟木の下部を適当な間隔で削り取って水の逃げ道を与えてやります。逃げた水はそのまま全体に薄く散らばって流れるか、最後は軒先に来て外部に吐き出されてしまいます。

このような水抜き穴の付いた桟木も広く普及しています。また、普通の桟木を用いる場合は、屋根に事前に縦桟(キズリテープというものを使用します)を流しておき、その上に桟木を打ちます。縦桟がバックアップ材となり桟木を浮かせ水の逃げ道を作るという工法です。

先に、F形の瓦は防水性能が劣ると書きましたが、F形の施工マニュアルはその発売当初から、この工法を工事店に義務化しておりました。屋根材の欠点を2次防水層で補うという考えです。

7.本谷鉄板

数年前まで、本谷には銅板を使用するのが、我々の地域では一般的でした。当社も0.4mm厚の銅板を使用していたのですが、2000年に社内で議論が持ち上がりました。「最近、緑青ののった銅板屋根を見かけない」「かつて緑青ののっていた銅板屋根から緑青が落ちてしまった」という話が発端です。

結局、原因は酸性雨の影響と判断しました。銅板の耐久性は緑青の被膜があるからです。それが酸性雨の影響で流れてしまう、となれば、今後、本谷に銅板を使用することに疑問が生じます。

それをきっかけに当社では2000年に、本谷板はステンレス(厚み0.35mm)を標準仕様とすることに切り替えました。

8.緊結材(釘・ビス・銅線)

この項は少し長くなると思います。ご了承ください。

瓦の緊結材に求められる性能は

  1. 耐候性(錆びない)
  2. 保持力(引き抜け難い)
  1. 止水性(水が伝わり難い)

といったところだと思います。

この中でもっとも重要なのは(1)の耐候性です。

瓦を止め付ける際、瓦に開いた釘穴に釘を差し込んで打ち込みますが、この釘が腐食してしまうと、釘穴の中で錆が太って内側から釘穴を圧迫し、その後、瓦にひびが入るか、ぱっくりと割れてしまうのです。

したがって瓦の穴に差し込む釘、ビスは必ずステンレスを使用しなければなりません。ステンレスとひと口に言っても、磁性の有るもの(SUS410 等)と無いもの(SUS304、305等)があります。当然、磁性のないものの方が錆び難いです。当社では必ず磁性の無い釘、ビスを使用します。但し、強度は磁性の有るものに劣ります。事実、インパクト・ドライバで打ち込んだ時に、頭がちぎれやすいビスに遭遇したことがありました。同じステンレスといってもメーカーによって品質の差があるようなので、製品の選定には気を付けねばなりません。

(2)の保持力が問題になるのは釘の場合です。ビスは一般に強い保持力が期待できます。

釘の保持力を決定する大きな要素は釘の形状にあります。瓦工事に使用する代表的な釘の種類は、

代表的な釘の種類
※写真はイメージです。
  • スクリュー釘
  • スクリング釘
  • リング釘
  • eスクリング釘

といったところだと思います。
当社では、瓦の止め付けにはeスクリング釘を使用しています。以前はリング釘を使用しておりました。

リング釘を選んだ理由は、スクリューやスクリングと比較し引き抜き強度が圧倒的に高いと実感出来たことです(実際に釘を打って引き抜いてみればすぐに分ります)。さらにもうひとつの大きな決め手は「止水性」です。リング釘の特徴は、釘の溝が釘を打ち込む方向に対して垂直に何重にも刻まれています。この溝がいったん木材と噛んでしまえば、そこで水の浸入は阻まれると考えられます。他の釘は溝がらせん状に入っていますから、そのらせんを伝って浸水してゆく可能性があります。

また、2のスクリング釘は、名称の示す通りスクリューとリングの刻みを合わせたもので、一言で言ってギザギザしています。屋根工事に使用する場合、このギザギザがルーフィングを必要以上に傷つけてしまう、と言われています。特に実験をしたわけでなないのですが、理屈で考えればその可能性は高いと思われ、当社では使用しておりません。

その後、リング釘とスクリング釘の長所を併せ持ったeスクリング釘が発売され、当社もリング釘からeスクリング釘へ切り替えました。理由はリング釘の唯一の欠点であった打ち込み難さでした。
(3)の止水性に話が及びましたが、ここで、2000年に瓦業界が発行した「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」(以下「ガイドライン」)についてお話しなければなりません。

2000年に建築基準法の大幅な改定があり(いわゆる住宅新法)、さらに「品確法」が制定されました。これらを受けて瓦業界も「ガイドライン」を発表したのですが、当社としてはこの内容の一部に大きな疑問を持っているのです。
このガイドラインでは、桟瓦を止め付ける際に65mmの長さの釘を使用せよ、と書いてあります。この長さの根拠は、「釘が瓦の釘穴に差し込まれて、瓦桟木を貫通し、さらに屋根板まで貫通する長さ」であることです。

確かに、止め付ける強度だけを考えた場合、「桟木だけに食い込んでいる」「若しくは桟木を付き抜け屋根板を突き抜ける手前で止まっている」長さに比べ、屋根板まで貫通する方が強いのは考えても分りますし、実際にデータもあります。しかし、実際にこのような工事を行った場合、小屋裏に入って屋根板の裏面を見上げれば、至る所から釘の先端が突き出ていることになります。 溜まった水は一度伝わるものを見つけた場合、その道がふさがるまでどこまでも伝っていきます。釘と釘穴は特に水が伝わり易いのです。それでもまだ釘の先に行き止まりがあれば(木材を突き抜けず中で留まっている状態)、水の流れはそこでストップします。しかし、釘の先がどこまでも貫通し、空間に突き出てしまい、そこを伝った水が、水滴となって落下するまでになってしまったら、水の流れは止まりません。

「ガイドライン」はこういった可能性を考慮していません。なぜなら「ガイドライン」は「風と地震に対してそれに対抗する施工法を示すもの」だからです。しかし、屋根にとってもっとも大切なことは、地震や台風で瓦が落ちたり飛んだりしないことも勿論ですが、一番は雨漏りさせないことです。

一般に建築の場合、あるひとつの性能を強化した場合、別の性能が低下したり思いがけない弊害が新たに生じることが往々にして起こります。その最大の失敗は、断熱を強化し、暖かい家を作ってみたら、たいへんな結露が発生し、家が腐ってしまった、という事例です(この時も断熱材をきちんと施工した真面目な工務店ほど被害を受けたと聞きました)。これが「不整合に気付かなかった失敗」の例です。
話を戻します。屋根の場合も、一般的に言って屋根材の緊結力を強化すればするほど、防水性能は落ちます。屋根材を緊結するということは取りも直さずやたらに釘止めすることですから、ルーフィングと屋根板にたくさん釘穴が開きます。穴が多ければ当然雨水の浸入箇所が多くなり、防水上は不利になります。

問題はそれだけではありません。屋根材の緊結力の強過ぎる屋根は、メンテナンスに支障を来たします。新築の場合は足場が組まれたところで仕事を行いますが、後日行われる点検・メンテナンスの際は足場がありません。瓦屋根に上がる場合、特に勾配(屋根の傾斜)が急な屋根の場合は、滑って転落せぬよう時には瓦を部分的に外しながら上って行きます。1枚置きにスクリュー釘で止めてあるくらいなら比較的楽に瓦を外せますが、防災機能付きの瓦をリング釘で全数止めした屋根の場合、1枚外すのにもたいへんな労力を要します。時には割らないと外せない場合もあります。さらに瓦を差し込んで元に戻すのも独特のコツが入ります。瓦の専門工事業者でなければこの作業は無理です。したがって部分的に破損した瓦を差換え修理するのも、以前と比べ格段の手間と危険を回避するための安全対策を要するようになりました。

今現在、当社がベストと考える緊結案は次の通りです。J形を例に説明いたします。但し、下記の下線部の工法は2006年8月時点では検討中であり、まだ実施しておりません。(その後も東日本大震災などの震災があり、いまだ全数止めを行っております。)

当社の工事エリアは「基準風速30m/S地域」です。建設省告示で定められた基準風速9段階のうち、もっとも弱いレベルの地域です。 まず、瓦を止めるリング釘の長さは55mmを使用します。これは、J形の場合、15mm厚の桟木を貫通し、12mm厚の屋根板を突き抜けずに納まる長さです。さらに瓦は防災機能付きとします。

2階建てまでの一般住宅の屋根瓦の場合、屋根の端部(軒、袖)は瓦1枚につき3箇所止め、棟際の瓦は全数止めとします。次に軒瓦から2枚目の瓦、および袖瓦の隣の瓦は全数止めします。また雪止瓦は原則2本止めとします。残りの瓦(平部の瓦と呼びます)は、その建物の立地条件・風向きで判断しますので一概には言えませんが、原則として1階は1枚置きの千鳥止めとします。2階は、45mmのリング釘を用意し、55mmと45mmの釘を交互に使いながら瓦を止めていきます。45mmの釘を使用するのは、この長さは桟木を突き抜ける直前で止まり、ルーフィングに傷をつけないぎりぎりの長さだからです。こうすることで、55mmの釘で全数止めを行った場合より、ルーフィングに開く釘穴を1/2近くまで減らせます。

当社も2003年5月の三陸南地震、2004年11月の強風と全国的に報道された大きな自然災害を体験しております。その時に把握した被害状況から、冷静かつ総合的(防水性、メンテナンス性も考慮して)に判断して、一般住宅における瓦の緊結方法の基準としては上記の方法で(当社の工事地域では)必要にして充分と考えます。また、地震に関しては、独自に棟の耐震工法を確立しております。独自と言っても、普通に入手出来る材料だけで施工可能なオープンな工法です。本ホームページで耐震棟瓦工法 完成までの経緯耐震棟瓦工法の施工図(CADデータ)も公開しておりますので、そちらも方もご参照ください。

10.棟芯木

棟芯木

現場レベルで、棟部に芯木を使用する工法が一般的になったのは比較的最近のことと思います。洋瓦のように、棟を高く積まない施工(丸瓦伏せとか冠納めと呼びます)で比較的早くに普及しました。工法の概略は、棟芯に910mm間隔程度で棟金具を取り付け、そこに40mm角前後の木材を棟芯にそって取り付けます。そこに丸瓦や冠瓦を被せて木材当てにビスを使用して止め付けるものです。平瓦と棟瓦の隙間は事前にモルタルなど湿式材料で埋めておきます。

従来工法は、湿式材料と銅線だけで止めるものでしたから、芯木とビスを使った方法は、棟瓦の固定力を大幅に向上させました。 和瓦の場合、棟にのし瓦を数段積んで納めますが、「ガイドライン」では、この場合もやはり芯木を使う施工例を提示しております。しかし、実際の施工現場レベルでは、このような工法はまだまだ普及していないと思われます。

当社の耐震棟工法は、「ガイドライン」の例示工法を、当社なりに改良したもので、芯木は樹脂製品を使用しております。

寒冷地では、棟納め用の湿式材料はセメントモルタルを使用するのが一般的ですが、芯木はその中に埋め込むことになるので、長期的に見て腐食が心配されます。前述の通り、原則として当社では防腐処理薬剤の塗装品もしくは注入材は使用しないことにしております。したがって残る材質として樹脂製品を使用することになりました。

11.湿式材料(セメント・砂・混和材)

棟・壁際を納める時に使用します。平瓦の形状はF形を除いて山と谷がありますから、棟・壁際部は谷部分を埋めて平らにしないと、のし瓦や棟瓦を納めることができません。この「平らにする」工程を当社では「台面取り」と呼んでいます。台面を取ることによって平瓦とのし瓦もしくは棟瓦との隙間が埋まり、かつ安定した納まりとなります。

一般住宅の棟・壁際に使用する湿式材料は、大きく分けて、棟土・南蛮漆喰とセメントモルタルがあります。一般的には棟土・南蛮漆喰を使用し、寒冷地においては凍害を避ける配慮からセメントモルタルを使用する傾向があります。

当社の工事エリアである岩手県はまさに寒冷地であり、当社も含め県内の瓦工事店は筆者の知る限りではどこもセメントモルタルを使用しております。

工事現場に小型ミキサーを持ち込み、普通ポルトラントセメント、川砂、さらに瓦用の棟土として市販されている配合土を混ぜて、水を入れ、練って使用します。このようなやり方をしているのは、東北でも一部の地域で、全国的に見れば少数派のようです。また、南蛮漆喰とセメントモルタルでは使用するコテも違いますし、扱う技能(コツ)も違います。普段南蛮漆喰を使っている職人はセメントモルタルを扱えませんし、その逆もあります。

以前は、南蛮漆喰でもセメントモルタルでも職人は現場にミキサーを持ち込んで練っておりました。しかし、袋の入った棟用配合土が発売されてから、一気にそちらに移行したようです。確かに現場でミキサー練りする必要がありませんので大幅な省力化になったのでしょう。

当社の考えとしては、やはり湿式材料は現場でその地域の気候にあった配合を行い、手間がかかってもミキサーで練り直すという工程を省くべきではない、と思います。

建築全般に言えることですが、新しいことを行った場合、その結果がすぐには出ません。棟土の配合は、特に気を使う分野です。当社も10年程前まで、棟土はセメントと川砂だけでしたが、棟用配合土を混ぜることで施工性と防水性が向上すると考え、配合比を変えて何種類か練った塊を1年間曝露試験を行い、耐候性・耐久性を確認した上で現在の配合を決定しました。

12.棟換気

瓦の棟換気部材は、

  1. 棟上部取付け型
  2. 棟部瓦下取付け型

とに分類されます。

棟換気

(1)は棟瓦に組み込むタイプの物で換気口は外部に面しています。(2)は棟際の平瓦の下に設置し、したがって換気口は外部から見えません。このタイプは平瓦の下も外気と見なす、という前提に立って考えられたものです。平瓦の下でどれだけ換気できるのだろう、と疑問が沸きますが、当社では、発炎筒を焚いて実証実験を行ってみました。結果を数値として表すことは出来ませんが、視覚的にみて充分換気を取れているという実感を得ました。本ホームページでも映像を公開しておりますのでご覧ください。

データはありませんが、(2)の部材の方が広く普及している、と思われます。(1)に比べ価格が安いことと、換気口が外部に面していませんから、防水上安心感があるためと思います。当社も特に指定がなければ(2)のタイプを使用しております。

以上が換気部材の紹介になります。次に、屋根換気には「小屋裏換気」と「屋根の垂木間換気」の2通りがあることをご説明いたします。

「小屋裏換気」とは要するに天井裏にこもった空気を入れ替えることです。この前提となるのは、建物の天井部分で気密と断熱がしっかり成されていることです。つまり、天井までを室内(建物の内側)と捉え、そこから上(天井裏)は外部と見なす、という考えです。もちろん、天井での気密・断熱が成されていない建物の場合でも屋根換気を行うことは結露防止を考えれば有効かもしれませんが、一方、居室が暖まりにくくなる不便が生じます。暖まった空気がどんどん天井から外へ逃げて行き、暖まらないからさらに暖房を使うといったエネルギー効率の悪い暮らし方になります。「屋根の垂木間換気」は、天井ではなく屋根を断熱層とした場合に使用されます。この場合は、天井裏は建物の内部と見なします。一般的に言って建物内部から外に向かい、気密層→断熱層→透湿防水層→通気層→屋根板の順で部材が重なります。「垂木間換気」とはこの通気層を通って上昇した空気を棟の頂点で排気することです。

したがって「小屋裏換気」と「垂木間換気」では、取り付ける換気部材の数量の算出の仕方も、取付け方も異なります。「小屋裏換気」の場合は天井面積が数量算出基準になり、「垂木間換気」の場合は、垂木で仕切られた個々の通気層の空気をいかに有効に吐き出させてやるかが数量算出のポイントになります。何れの場合も、建物それ自体の気密・断熱がきちんと成されていることが前提となって棟換気が有効なものとなります。「高気密・高断熱・計画換気」で設計された住宅は、少ないエネルギーで屋内全体を快適な室温で維持することを目的にしています。その結果として、建物の内部の熱が屋根面に伝わることがなくなり、北国の屋根を悩ませてきた「すが漏れ」や、2階の屋根からの落雪・落氷による1階の瓦の破損という問題を解消しました。「すが漏れ」に関しては別項「雪害対策」もご参照ください。

13.乾式棟材料

2010年前後、洋瓦の棟を納める冠の施工法および和瓦の棟を熨斗積せず丸瓦だけで納めるいわゆる「丸伏せ」の施工法が大きく変わりました。棟納め用の乾式シートの発売です。これによって洋瓦や和瓦の丸ふせ納めは完全乾式(棟土・南蛮漆喰やセメントモルタルを使用しない工法)に移行しました。これによって瓦屋根の軽量化・施工性向上が大きく前進しました。

参考資料

耐震棟瓦工法の施工図(CADデータ)

施工図タイトル JWC形式 PDF形式
棟5段積納まり図(J形) (160KB) (125KB)
棟9段積納まり図(J形) (195KB) (150KB)
松皮菱9段化粧(J形) (204KB) (199KB)

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