屋根の実戦データ

  • 執筆者略歴
  • 沼太英雄士(沼田 弘)
  • 1961年 岩手県遠野市生れ
  • 早稲田大学 教育学部 理学科
    生物学専修卒業
  • 2級建築士
  • 2010年現在
    (有)沼田製瓦工場 代表取締役

実戦!屋根の知識(粘土瓦の種類)

製法による分類

 現代において広く使用されている瓦は「いぶし瓦」と「釉薬瓦」です。
 「いぶし瓦」は焼成の最終段階で燻化を行い、素地表面に銀の炭素膜を形成させ、その後炭素膜を燃焼させないよう窯を密閉して冷却します。このようにして製造されたいぶし瓦は文字通りいぶし銀のような色をしており、その色が変色、退色しにくいものが望ましいとされています。
 耐寒性が釉薬瓦より劣ると考えられ、寒冷地における普及率は低いです。当社は三州メーカーのいぶし瓦を仕入れて工事を行ってますが、今のところ凍結融解(凍害)は発生していません。何れにせよ、いぶし瓦を寒冷地で使用する際は、瓦の選定に注意を要します。
 「釉薬瓦」は日本の粘土瓦の約7割を占める代表的な瓦です。陶器瓦とも呼びます。その名の通り釉薬を施して焼成し、釉薬の発色により様々な色の瓦が製造されています。
 釉薬とは、無色透明のガラスになって溶ける基礎釉に、着色剤(ジルコン、酸化コバルト、酸化鉄他)などを加えたものです。同じ釉薬を用いても、焼成温度や窯の雰囲気に影響され発色が異なる場合があります。
 その他の瓦については、当社でも使用例が少なく、説明を割愛させていただきます。

このページの上へ▲

形状による分類

 「雨水の浸入をいかに防止するか、また進入した雨水をいかに外に逃がすか」が瓦の形状を決めるポイントです。水は必ず低い所(谷)に集まって流れて行きますから、この谷の部分から瓦の重ね目や隙間に水が上ってこないようにしなければなりません。また仮にそこから浸水しても重なった下部の瓦でその浸水を受けてやれるような形状でなければなりません。これはまた、屋根の工事を行う場合の基本的な考え方でもあります。そんなことを念頭に置きながら独自の観点から瓦の形状を見て行きたいと思います。

(1) 山・谷組合せ形
山になる瓦と谷になる瓦を相互に組み合わせて葺き上げる瓦。山瓦と谷瓦は同形状でも良い。
ヨーロッパのスパニッシュ瓦、日本の本葺き瓦(日本古来の瓦、社寺建築に多く使用される)
珍しいところでは群馬県にある十能瓦
(2) 山・谷一体形
1枚の中に山になる部分と谷になる部分を持つ瓦。(1)の瓦を簡素化、合理化させて瓦とも言える。
J形(和形)、S形、M形(2山瓦)
(3) アンダーラップ形
瓦の表面には極端な山・谷を作らず、横に並んだ瓦の隙間からの浸水は重ね目に設けたアンダーラップで受けて外に吐き出すタイプ。
F形(フラットタイプのF、いわゆる平板瓦) フランス形(フレンチ)

 この中でJIS規格があるのはJ形とS形だけです。また、よく洋瓦という言葉を耳にします。極めて曖昧な呼称なのですが、「洋風に見える瓦」という意味にとらえれば、上記の瓦のうち、本葺き瓦とJ形以外は洋瓦となるでしょう。但し、J形=和風とも一概には言えません。事実ヨーロッパにはこのJ形の山と谷の位置が逆な瓦(相似形の瓦)がたくさんあります。形状から言って、もっとも理にかなった瓦ですから、他国にあったとしても何の不思議もありません。

 次に、現在一般住宅に広く使用されているJ形、F形、M形、S形について個別に説明してまいります。

(1) J形(和形)
 防水性能がもっとも高く、JIS規格もあり市場性も高い(いつでも常に入手でき、メーカー間の互換性もある)。瓦下の通気も充分に確保出来る。価格帯も手頃。総合的に見てもっとも完成度が高く、自信を持ってお奨めできる瓦です。相似形の瓦がヨーロッパで普及している事実が示す通り、カラーや役物の選び方により洋風住宅の屋根も美しく仕上げます。
 また、このタイプのバリエーション形状の瓦も多数発売されておりますが、市場性を確保するところまで至った製品は今のところまだありません。
(2) F形(平板、フラットタイプ)
 屋根をフラットに仕上げますので、瓦だと気付かずに見ている方もいらっしゃると思います。
 瓦表面に山・谷の凹凸が少ないか、ほとんど無い為、水上から、または横走りした雨水が隣り合った瓦の境目から進入する可能性があり、それを前提として「アンダーラップ」という浸水を受ける部位が備わってます。とは言っても防水性能は4種類の中で一番劣ると言わざるを得ません。また、フラットな形状の為、瓦の下に充分な通気が取れず、瓦の裏側に結露を呼び易いと思われます。あくまで4種類の瓦の中での比較ですが、残念ながら屋根材としての基本性能は他と比べ1段劣ります。また、各メーカーが様々な製品を出しているのですが、見た目はほとんど変わらないのに互換性がありません。したがって市場性でも劣ります。但し、三州のある有力メーカーの製品が市場を圧倒してますので、当社としてはその製品をお奨めしています。
(3) M形(2山タイプ)
 F形の一種とみなす考えもあるようですが、性能からみてこちらの方が上位にくると思います。1枚の瓦に山がふたつあり、その形状がアルファベットのMに似ていることからM形と名付けられました。山谷のメリハリがはっきりしているので、基本的に防水性能は高いと考えられますし、瓦下の通気も充分取れていると思います。但し、各瓦メーカーが独自の製品を発売し、当然互換性もない為、将来的にどの製品が残るかが問題です。当社では、このタイプの先駆け的商品で、市場でのシェアがもっとも高い商品をお奨めしています。
(4) S形
 スパニッシュ瓦を簡素化した瓦で、日本独自の物です。1枚に大きな山と谷があり、その形状がSの字をしていることからS形と命名されました。JIS規格があります。価格帯は高めになります。10年以上前、まだ洋瓦の種類が少なかった頃は洋風な建物によく使用されてましたが、ここ数年の洋瓦ブームの中で、逆に影が薄くなって来たような気がします。もっとも現在でも店舗の屋根やハザードなどに根強い需要があります。
 工事する立場から言えば、大きな山・谷がある為、屋根の谷部分の瓦の切り口の隙間が大きくなってしまうのが欠点と感じています。

 以上、現場サイドで日頃感じている事柄を交えながら説明してみました。お断りしておきたいのは、多少辛口のコメントがありますが、それはこれらの瓦はある一定以上の品質・性能はクリアしており、あくまで相互の比較の上で、性能項目ごとに優劣があるのだ、と言う意味です。決して個々の瓦を否定しているわけでない、ということをご理解願いたく思います。

このページの上へ▲