屋根の実戦データ

  • 執筆者略歴
  • 沼太英雄士(沼田 弘)
  • 1961年 岩手県遠野市生れ
  • 早稲田大学 教育学部 理学科
    生物学専修卒業
  • 2級建築士
  • 2010年現在
    (有)沼田製瓦工場 代表取締役

実戦!屋根の知識(はじめに〜家と瓦)

「はじめに〜家と瓦」

 「家」は、まず基礎があり、その上に土台、柱、梁、桁などの構造部分(骨組み)が組まれ、外側が外装材で覆われ、内側が内装で仕上げられます。同時に、電気、水道、ガスなどの設備工事が入り、ひとつの建築物が完成します。

 外装材は、屋根材と外壁材に分類されます。
 瓦は、現代において広く普及している屋根材の中で、もっとも長い歴史のある代表的な屋根材である、と言えます。
 建築全般の視点に立てば、建築物の中でいちばん重要なのは「基礎」と「構造部分」です。この部分の強度が弱かったり、耐久性が劣っている建物は、他のどんな部分にお金をかけようと、その建築物としての価値は極めて低いものとなります。
 外装材の役目は、建物にとってとても大切な「構造部分」を、過酷な自然環境から保護し、かつ建物に美しい外見を与えることです。

このページの上へ▲

「外装材は消耗材か」

 外装材を選ぶ際には相反するふたつの考え方があると思います。

 ひとつは、外装材はあくまで構造部分を保護する為の消耗材とする考え方です。アメリカでは屋根材は、何年かしたら取り替えれば良い、とする考えが一般的なようです。但し、この考えの前提には、外装材は取り外しし易く、かつ、いつでも部分補修できるよう材質、規格、色など同じ物がすぐに手に入るという環境になければなりません。アメリカをはじめとして欧米では自分の家は自分でメンテナンスする、という考えが一般的です。現地のホームセンターに行けば、ほとんどの建材が手に入ると言われています。但しそこには、建築の工法、建材が単純で、その種類が限られている、という日本とは異なった事情があることを忘れてはいけません。

 もうひとつの考えは、過酷な自然環境にさらされる外装材こそ高い耐久性を必要とする、とする考え方です。
 瓦は後者の考えに属する代表的な屋根材です。

 したがって屋根材の選定の際には、自分はどちらの考え方を取るか、を明確にすべきだと思います。
 外装材を消耗材と考えるのであれば、その選定の際に留意することは、部分補修が必要な場合を考慮し、その材料が10年後20年後に確実に同じ物が手に入るか検討してみることと、その建材が廃材となった場合の処分が容易かどうか、という2点です。
 また、外装材を耐久材と考える場合も、例えば粘土瓦の場合、瓦自体の耐久性は半永久的と言えますが、長い年月のうちに、外力(誰かが屋根に上がって踏み割ってしまう等)によって割れてしまうことがないとは言えません。粘土瓦の種類・形状・カラーも多種多様ですから、将来、製造中止になる可能性のある特殊なアイテム、一時の流行色などは出来るだけ避けた方が無難と思います。

このページの上へ▲

「屋根材になにを求めるか」

 次に屋根材を別の観点から分類してみます。
 いわゆる「軽い屋根材」と「重い屋根材」です。
 「軽い屋根材」の代表はカラー鉄板などの金属系の屋根材で、「重い屋根材」の代表は、粘土瓦やセメント系の瓦が該当します。
 近年、大きな地震に見舞われた地域では、一時期瓦離れの現象が起こったと言われてます。
 確かに、耐震診断を行い、構造的に弱いと診断された場合は、もし屋根が瓦で葺かれているのであれば、金属系の屋根材に葺き直すのもひとつの賢明な方法と思います(瓦工事業の私としてはとても残念ではありますが)。

 しかし、住宅を新築する場合、たとえ軽い屋根材を選択したとしても、構造的強度は重い屋根材でも充分持ち応えられる強度にしておくことをお奨めします。
 これはつまり、住宅性能(若しくは住宅価値)の基本中の基本は、基礎と構造体(もっと言えば地盤の品質も加えたい)にあるからです。
 建築予算は限られている場合がほとんどです。その限られた中で、どこに最優先に予算を配分するか、と言えば、地盤、基礎、構造体であると断言して良いと思います。これらの部分さえしっかりしていれば、その他のことは後々になっても比較的柔軟に対応できます。この「基本がしっかりしていて、その他が柔軟である」ことが、住宅の資産価値を大いに高め、かつ持続させます。例えば、新築時に屋根に配分する予算が少なければ、取り合えず横葺カラー鉄板で葺いておき、後々余裕が出来た頃に瓦なり好みの屋根材で葺き直せば良いのです。構造体が強固なら、この時の屋根材の選択も自由です。
余談になりますが、この考え方の究極の形がスケルトン・インフィルです。構造体(家の枠組み)を強固なものにし、その他(内外装、設備)を分けて設計することで、将来的に、間取りや、内外装、設備の変更が自由に出来るというものです。

このページの上へ▲

 さて、ここまで屋根材の選択について思うところを書いてまいりました。先に、日本と欧米の建築事情は異なる、と書きましたが、この項の最後に、そのことについてもう少し触れておきたいと思います。
欧米と比較し、日本の住宅産業の際立った特徴は、あまりの多くの工法、特殊な建材が氾濫し過ぎている点です。例えば、「高断熱・高気密」の工法だけでも現在100種類以上あると言われております。それにあわせて建材も特殊な物が次々に発売されます。我が国の住宅建築業界は、互いに差別化することで自分たちの工法の優位性を主張し合う、という流れになっています。
 結果として、2000年以降、日本の住宅性能は間違いなく向上しました。例えば、我が岩手県における新築住宅のほとんどはしっかりとした断熱が施され、冬季の悩みだった「すがもれ」がほとんど見られなくなりました。屋根工事業の立場からすると、ほんとうにすばらしい成果だと思います。
 しかし、その一方で懸念される点がないではありません。
 まず、工法、建材が特殊ですから、後々、メンテナンスをしたり、増改築を行うことになった場合、誰でも工事が出来るというわけにはいかなくなってしまう点です。第一、建材が特殊ですから、簡単に手に入らなくなります。このような工法を「クローズド工法(閉ざされた工法)」と呼ぶことがあります。具体的にはハウスメーカーのプレハブ住宅や、独自の工法をFC(フランチャイズ)加盟店を集って展開する手法などがこれに該当します。それに対して、木造で言えば、木造軸組工法やツーバーフォーは誰でも採用できるよう工法が公開されており「オープン工法」と呼ばれます。
 また、先に粘土瓦のことでも触れましたが、日本の場合、外装材は屋根・壁とも、その種類・デザインはあまりに多種多様で、かつ移り変わり(車で言うとモデルチェンジ)が激しすぎる気がします。デザイン性が重視される分野なので分らないではないのですが、やはり建築材料は車や洋服とは違うと思います。その地域の町並みを形成する「定番」と言えるものが必ずあるはずです。
 屋根材を選ぶ際には、ぜひ、この定番とは何なのかをよく考えていただき、その中から選んでいただきたい、と言うのが、長く屋根工事業を営んでいる立場から切実に思うことです。
 粘土瓦というそれ自体は半永久的な耐久性を持った屋根材の工事をしておりますと、どうしても建物の将来性について先々まで気になってしょうがありません。日本の家の建替えサイクルは25年くらいと言われてます。私が心配するのは、25年経ち、柱も細く、間取りも実情に合わなくなっているが増改築に耐えられない、という住宅が、結局、取り壊すしかないとなった場合、その解体と廃材処分にかかる費用です。ここ数年で、解体、廃材処分費は大幅に高騰しました。それがさらに25年後どうなっているのでしょう。
 新築時に、解体する時の費用まで計算する方はほとんどいらっしゃらないと思います。老後に解体・廃材処分費のような不毛な出費をせずに済ますには、家を長く受け継がれる資産として捉えねばなりません。今後の住宅建築は、この点がとても大切になってくると考えます。

このページの上へ▲